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血脈と系図

血脈と系図

新約聖書のマタイによる福音書第1章の有名な冒頭。イエス・キリストの系図。アブラハムはイサクをもうけ、イサクはヤコブを、ヤコブはユダとその兄弟たちをもうけ~こうして延々と誰が誰の父か、という名前の列挙。「ヤコブはマリアの夫ヨセフをもうけた。このマリアからメシアと呼ばれるイエスがお生まれになった。」 「これがアブラハムの子ダビデの子、イエス・キリストの系図 」なのだそうだ。

日本で有名な外国人ピアニストのひとり スタニスラフ・ブーニン 。彼の祖父はゲンリフ・ネイガウスという有名なピアニストで、ロシアピアニズムの4大流派ネイガウス派の開祖である。その息子スタニスラフ・ネイガウス、つまりブーニンの父も有名なピアニスト。DNAも環境もピアニストの為にあった。

さて、それでは田尻洋一の系図は?

両親は音楽家ではない。8歳の時、自宅にあった箱型のステレオから流れてくるベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」を聴いて「これが弾きたい!」と近所のピアノ教室に通い始めた。ショパンのエチュード「木枯らし」にも憧れの気持ちを持った。そのわずか3年後には、関西テレビ放送主催ピアノコンテストにて第3位に入賞、その後、全日本学生音楽コンクール西日本大会にて第2位に入賞し、この頃より各地で演奏活動を開始する。憧れの「悲愴」も「木枯らし」も小学生で弾くことができるようになっていた。

それでは、田尻洋一の血脈は?

これは、凄い。あの伝説の天才ピアニスト イディル・ビレットの唯一の弟子。

イディル・ビレットと言えば、誰もが知る20世紀の双璧を成す巨匠ピアニストのふたり、アルフレッド・コルトーとヴィルヘルム・ケンプが  彼女は自分の弟子であると言い張り、彼女を取り合って裁判沙汰になったという逸話の持ち主。ヴィルヘルム・ケンプは彼女が8歳でパリ音楽院に入学を許可されたころから可愛がり、互いの自宅を行き来しながら指導し、1953年彼女が11歳の時にモーツァルトの2台ピアノのための協奏曲を共演 した。また、コルトーは彼女に毎月個人レッスンを行っていた。 彼女は ルービンシュタインやギレリスからも称賛を受けていたと言われている。幅広いレパートリーを、超絶技巧と深い音楽性で弾きこなすことで知られている。そんな天才ピアニスト イディル・ビレットに田尻洋一がただ一人入門を許されたというニュースは話題を呼んだ。

田尻洋一が膨大なレパートリーを全て暗譜で演奏するのは、そんな彼女を見てきたから。「レッスンにいきなりどんな曲を持っていっても全て暗譜で指導する。とにかく全部が入っている。これこそがまさしくプロ。プロとはこういうものなのだと思い知った。」田尻洋一は若い頃から今までのピアニストとしての長い時間を振り返るように言った。「自分のやってきたことの大変さと真の価値を本当に心底理解してくれるのはビレだけだと思う。」田尻洋一は彼女を「先生」と呼ばず「ビレ」と呼ぶ。小柄な彼女は手も小さかった。彼女が苦労する曲を田尻が難なく弾くと、 自分より指の届く田尻に「ヨ―イチはずるい」と本気で悔しがった。彼女にとっては 唯一の弟子でさえ、ライバルなのであった。